近年、瓦記録(SMRとも呼ばれます)を使用したハードディスクが徐々に市場を占拠しています。
瓦屋根のハードディスクの原理及び長所と短所については多くの紹介がありますが、いまいちわからない物も多いので、この記事では瓦記録方式の発想、記録原理、長所と短所、および瓦記録ハードディスクの使用経験について詳しく説明します。
より多くのデータを書き込むために
ハードディスクの記録技術は何回も進化してきました。磁性体を垂直方向に磁化する、ヘリウムを封入してディスクの隙間を減らし枚数を増やすなどの技術を採用していましたが、正直もう限界です。
現在、データの記録密度を高め、限られた面積のディスク上でより多くのトラックを記録する唯一の方法は、トラック幅を減らすことです。
トラックの幅は磁気ヘッドによって決定されるため、この問題は最終的に磁気ヘッドのサイズを小さくすることになります。また、データを読み取るための読み取りヘッドは非常に小さくできるため、トラック密度の向上を制限しているのは書き込みヘッドのサイズになります。
データを書き込むために、書き込みヘッドは、ディスク表面の磁性体の磁極を反転させるのに十分な強さの磁場を生成する必要があります。しかし、サイズが小さくなると、磁気ヘッドで生成できる磁場はますます弱くなり、書き込めなくなってしまいます。これは、小さすぎる磁気ヘッドでは十分な磁力線を拘束できないからですので、コイル電流を増やしても補填できません。
この状況に、現在2つのソリューションがあります。
書き込むときの「難易度」を減らす
ディスクプラッター上の磁性体の保持力が弱いほど、磁気ヘッドが磁極を反転させやすくなり、磁気ヘッドのサイズを小さくすることができます。
これは当然です。
ただし、保持力が弱すぎると安定性が低下し、読み出しに影響を与えたり、データが失われたりする可能性があります。
そのため、書き込み中に磁性体の磁気特性を一時的に低下させる方法があればいいなっとHDDメーカーのエンジニアが考えていた。
現在、磁性体の磁場保持力を一時的に低下させる理論的に実行可能な方法は、レーザー加熱と特定の波長でのマイクロ波照射の2つがあります。
- レーザー加熱は、2000年にシーゲイトが研究を開始したHAMR記録技術であり、もうそろそろ実用化できそう。
- マイクロ波照射法は、東芝とWestern Digitalが取り組んでいるMAMR記録技術です。
残念ながら、これらの2つの技術には多くの課題があり、2020年現在はまだ実験段階。
これらの技術を研究していたこの20年の間、ストレージ必要の増大に直面して、賢いエンジニアたちは別のもっと簡単な方法を考え出しました。
斜め駐車
読み取りヘッドが非常に小さいため、トラックの一部だけでも読み取れればデータを識別できます。
それなら、読み取りヘッドのサイズに応じてトラックを設計できます。
下の図のように、トラックを瓦のように重ねて配置して、次のトラックを書き込むときは直前のトラックの半分を上書きしますが、残っている半分だけでも読み取りは可能ですので、一応書き読みができました。
この記録方法では、トラックが屋根の瓦のように重なって配置されるため、「瓦記録」(shingled magnetic recording) よ呼ばれています。
最大の問題
屋上の瓦と同じく、中間の1枚を交換するには1列の最初からその交換の1枚まで全部剥がして葺きなおす必要があります。
SMRハードディスクでは記録済みのデータを読み取るだけなら何の問題もありませんが、データを変更する場合、書き込みヘッドが「次の行」の既存のデータを破壊するため、後続の各「行」をキャッシュに一旦移動させて、書き換え箇所を書き換えてまたキャッシュから後続のデータを書き戻す必要があります。
1箇所変更でプラッター全体を書き直すことを避けるために、複数のトラックを1つの「バンド」として管理し、バンドの間ではオーバーラップしないようにしていますが、それでもバンド内の残りの部分を再度読み書きする必要がありますので、無駄な書き込みが発生してしまい、これを書き込み増幅現象と言います。
従来のHDDのキャッシュは約64MBに対して、SMRハードディスクは256MBと大容量キャッシュを搭載しているのはこのためです。また、一部SMRを使用しない領域を作って、頻繁に変化するデータを格納する方法も採用されていますが(いわゆるメディアキャッシュ)、それでも頻繁に変更するデータを扱う際の非効率さを根本的に解決することはできません。
これがSMRハードディスクが批判される理由です。
SMRが得意な使用状況
SMRはデータ書き換えが非効率という大きな欠点を抱いていますが、すべてが悪いではありません。
まずはデータ記録密度が高いため、SMRの連続的な書き読み速度は、従来のハードディスクより向上しています。
5400rpmのSMR HDDは180MB/sの連続読み取りと書き込みを達成でき、従来の7200rpmハードディスクにも負けません。
小規模なデータ書き換えが発生しないなら、SMRは従来のハードディスクよりも優れています。
- 読み取り専用:写真、ビデオ、音楽を保存するNASなど。これらのファイルは通常、一度書き込めば、ほとんど変更されません。また、削除、変更、および書き換えをしても、これらのファイルは比較的サイズが大きいため、そもそも多数のトラックまたは複数のバンドを書き換える必要があり、書き込み増幅の問題は顕著ではありません。
- 変更不可の書き込み専用:典型的な例は監視カメラです。継続に書き込みますが、途中のデータを変更することがありません。つまりこのような用途ではSMRの欠点が完全になくなります。
- バックアップ用:バックアップ用HDDには容量が一番大事です。容量の大きいSMR HDDを使用すればHDDの枚数が減り、管理がしやすくなります。また、アーカイブ用も1度書き込めば滅多に変更しないし、変更しても大きな変更になりますので、SMRのデメリットはあんまり感じられません。
そもそもSMRは最初アーカイブハードディスクとして発売していました。
瓦記録は本当に悪いのか
SMRに対して、時代が進んでいるのにハードディスクの性能が下がった、技術が逆走している、最近のHDDを買ってはいけないなどの声もあります。
単純にHDDの技術として見ればSMRはHDDの記録密度を上げて、TB当たりのコストを下げる非常に良い技術ではあります。
当初、SMRはArchiveシリーズのアーカイブ用ハードディスクとして販売されていました。
これは正しい、SMRの特徴と活用領域に合っているので、まさに適材適所です。
しかし、その後は一般的な分野の製品、例えばBarracudaシリーズ(COMPUTEと書いてるのに)にもSMRを使用し始めました。
メーカーがSMRはデスクトップにも適用できると主張して、ユーザーが真実を知らないままPC用として購入して、中にOSを入れる人も当然います。
結果はもちろんネット上によくあるレビューの通り「使い物にならない」「フリーズする」「ゴミ」。
PC用と謳っていますが、そのSMRの特性を理解すればNAS用HDDだとわかるはずです。
SMRは賢い技術、ただし汎用的ではない
SMRは非常に賢い発明であり、ハードディスクの構造変更することなく密度と容量を増やし、価格を下げれました。
将来、HAMRなどの補助記録技術が普及しても、読み取りヘッドが書き込みヘッドより小さくできる限り、SMRの価値が変わりませんから、SMRがそのうち消える物ではないと思います。
高いIOPSを必要とするストレージについては、SSDに任せ、アーカイブは容量と連続アクセス速度に優れたSMR HDDに頼るのといったハードウェアの特性を理解したうえでの適材適所な使い方が大事です。
SSDといえば、最近出たQLCのSDDもSMRのHDDと同じく「買ってはいけない」「使い物にならない」という評価を受けているようです。自分はOSにQLCのSSDを使用しているので、次回の記事で説明、レビューをします。